裏ブタに秘められた歴史:GIBSON刻印入り「Schaller “M6”ペグ」完全ガイド
1970~80年代初頭、Gibson純正として採用されたSchaller M6ペグ。その裏ブタに刻まれた「GIBSON」ロゴは、いまやヴィンテージギターファン垂涎のレアディテールです。
この記事では、刻印入りM6の背景からスペック、コレクター視点の魅力まで余すところなく解説します。
こんな人におすすめ!
見た目の印象だけでなく、音のニュアンスにも関わる部分でもあるので、ギターのスタイルや演奏スタイルに合わせて選ぶのがおすすめです。
前回は主に、現行モデル「Schaller “M6”」の仕様を中心に紹介しました。
“Schaller ペグ”の検索結果
今回はその続き。
ノーリン・ギブソンの特徴の1つでもある『GIBSON刻印入り「Schaller “M6”ペグ」』の紹介です。
※「サイズ」が知りたい方は、目次から『採寸【実測値】』へ。
復習:Schaller M6とは?
今回紹介する『GIBSON刻印入り Schaller M6』(以降「刻印入り」or「ヴィンテージM6」とする)は「M6」シリーズの中でも「180」というリグが水平位置に設置されたモデル。
「Schaller M6」の詳細は過去記事で確認していただくとして、今回『刻印入り』を紹介するにあたり留意点もあるので、少しだけ仕様を確認です。
Schaller M6とは
リグ(取り付けビスの位置)
リグとは、ヘッド裏にマシンヘッドをビスで固定するために設置された、“ツバ出し”部分のことです。
リグの種類
「Schaller」ペグは、仕様によりビスで固定するためのリグ取付位置が異なります。
モデル名 | リグの種類 | リグ位置 |
90 | センターリグ | ビス穴90°の位置。 ビス穴がギアボックスの真下にあるタイプ |
135 | 斜めリグ | ビス穴が135°の位置。 ビス穴がギアボックスの斜め横にあるタイプ |
180 | サイドリグ | ビス穴が180°の位置。 ビス穴がギアボックスの横にある一般的なタイプ |
Schaller M6 180の主な仕様
現行モデル「Schaller M6 180」の主な仕様は以下の通り。(2025年6月時点)

※重量は、ボタン・素材・仕様により異なるので、参考値です。
“Schaller ペグ”の検索結果
GIBSON刻印入りSchaller M6とは?

GIBSON刻印がある理由
概要
- 製造年代:主に1970年代のW. Germany製(西ドイツ時代)
- 刻印:ペグ本体に「GIBSON」のロゴがエンボス加工されている
- センターリグ構造:取り付けネジの位置が中央にあるタイプで、Grover風のルックスながらSchaller独自の設計
- ペグの形状はメタル製キーストーン型ボタンが多く、クラシックな外観と高精度なチューニング性能を両立
- 搭載例:Jeff BeckのOx Blood Les PaulやLarry Carltonの335など、伝説的ギタリストの使用例もあり
“Les Paul oxblood”の検索結果
起源と登場背景
OEMとしての「Schaller M6」とGibson
Schaller社はドイツの老舗パーツメーカーです。1970年代当時、Schallerはブリッジなどのギターパーツを提供していました。
1970年代初頭、Gibsonは従来のKluson製ペグから脱却し、より高精度なチューナーを求めてSchaller社(西ドイツ)にOEM(相手ブランド名での製造)供給を依頼します。
この時期、Gibsonは「Norlin期」と呼ばれる経営再建期にあり、品質や設計の見直しが進められていました。
Schallerはこの流れに応じて、M6シリーズをGibson向けの仕様で製造することとなります。
そのため、裏ブタに「GIBSON」ロゴを刻印した特注仕様が存在するのです。
今も昔もドイツ製であることには違いないですが、ヴィンテージとされる当時の製造国表記は「W. Germany」
製造国を示すW. Germany表記も当時らしさを物語ります。
GIBSON刻印入りM6の特徴

- 「GIBSON」ロゴが裏ブタにエンボス加工された特注モデル。
- Keystoneやトライアングルといわれる、メタル製ボタン
- Grover風の外観ながらSchaller独自の設計。
- センターリグ(ネジ穴真下)やサイドリグなど仕様が混在
特注刻印と高精度チューニング機構が融合した、ヴィンテージM6ならではの魅力です。
使用例と影響
- Jeff BeckのOx Blood Les PaulやLarry CarltonのES-335など、伝説的ギタリストの愛機に搭載。
歴史的意義
- Gibsonが樹脂製ツマミから金属製へ移行した時期に登場し、耐久性と操作性の向上を図った重要な転換点。
- 同時期にKlusonやGroverもトライアングル型メタルボタンを供給しており、70年代後半はペグ設計の革新期とも言えます。

このペグは、単なるパーツ以上にGibsonの変革期を象徴する存在です。
サウンドと機能性
- チューニングの安定性:Schallerならではの精密なギア比で、滑らかな操作感
- 重量感と質感:クローム仕上げで高級感があり、ヴィンテージGibsonとの相性も抜群
マニアックなポイント
- 当時Schaller製として採用された「GIBSON」ロゴ刻印のない「M6」は、裏蓋にシャーラー「S」ロゴと共に、「W. Germany」の刻印が入っている個体があります。
- 裏ブタの刻印にも個体差があり、ツマミの形状やネジの位置で年代特定のヒントになることも。
- 現行のGibsonアーティストモデルでは再現されていないため、当時物の価値は非常に高いです。
- Schaller M6の中でもセンターリグは特に希少で、Jeff Beckファンの間でも伝説的な存在だそうです。
完全オリジナルのまま残っていれば市場価値は飛躍的に上昇
ヴィンテージ市場での流通量が少なく、真贋やコンディションに注意が必要です。
真贋チェック&識別ポイント
- 刻印のフォントと深さを、公式カタログやオリジナル写真と比べる
- Germanyの刻印位置や文字間隔が不自然でないか確認
- ボタン裏の肉厚やネジ山の仕上げ具合で、流通品コピーとの違いを探る
採寸【実測値】
ペグポストの高さ

- ペグポスト高さ:約29mm
- ヘッド材・板厚部:約10mm
- 弦穴位置(シャフト中心から):約24.5mm
取付穴径・シャフト径

- 取付穴径:約97mm
重量

- 重量(ブッシュ含む):43.2g
Kluson「vintage style」との比較
御覧のとおり、ギアボックスの厚みからして違います。

画像では、ポスト基部の高さを揃えるために、定規(約2㎜厚)を敷いています。
弦穴位置
弦穴位置(シャフト中心~基部)

Kluson「vintage style」は約20mmでした。
※ヴィンテージM6:約24.5mm

“Kluson ペグ”の検索結果
現行モデルとの比較データ

現行M6シリーズの変更点:取り付け・互換性
基本的に互換性はあるはずですが、サイズ確認は必須です。
取り付け時も、スクリュー角度やヘッド形状をチェックし、フィット感を確認してください。
- 標準10mmヘッド穴と互換性あり。段付きワッシャーで芯ズレを防止
- サイドリグ/PIN構造など多様化
- 旧M6と同じフットプリントで簡単交換
- モダンギターからヴィンテージ復刻モデルまで幅広く装着可能
構造・機能の進化
- ギア精度の向上:現行モデルでは内部ギアの噛み合わせがさらに精密になり、チューニングの安定性が向上。
- 軽量化:M6 90などはヴィンテージよりも軽量で、ヘッド落ちを防ぐ設計。
- ワッシャー構造の改良:2段型ワッシャーを採用し、シャフトの揺れを抑制。
- PINモデルの登場:ネジ穴不要のピン固定式で、Fender系にも対応。
デザインと互換性
- ヴィンテージM6はGrover風のルックスながら、ツマミ形状やネジ位置が独特。
- 現行モデルは180・135・90など角度別に展開され、より多くのギターに対応。
- ヴィンテージはミリ規格、現行はインチ規格との互換性も考慮されている場合あり。
音響面の違い
- ヴィンテージは重量感と金属密度により、サステインや鳴りに影響を与える傾向。
- 現行は振動伝達効率を重視し、弦の鳴りがよりダイレクトにネックへ伝わる設計。
類似ペグとの比較ポイント
ペグブランド | 特徴 | GIBSON刻印入りM6との違い |
---|---|---|
Grover Rotomatic | サイドリグ構造、1:18ギア比 | 外観は似ているが互換性なし ビス位置が異なる |
Kluson Deluxe | ヴィンテージ感重視、オープンギア | 外観も構造も全く異なるタイプ |
現行Schaller M6 | PIN固定、軽量化設計 | 精度は高いが歴史的価値や刻印はなし |
導入・交換時の注意点
1. 取り付けネジの位置に注意
- リグ構造をもつSchallerやGroverであっても、既存の穴と位置が異なる可能性あり。
- 交換の際は新たに穴を開ける必要があることも想定するべき。
2. 直径と軸サイズの違い
- シャフト径は10mm前後だが、対象ギターのヘッド穴と異なる場合がある。
- 必ず寸法を確認し、必要なら木部加工やブッシュで調整。
3. ネジ・ブッシュの互換性
- ヴィンテージモデル特有のネジ規格(ミリ vs インチ)やブッシュの外径サイズにも注意。
- スムーズな取り付けには対応する専用部品が必要になることもある。
“ロトマチック”の検索結果
“Kluson ペグ”の検索結果
まとめ
このペグは機能性とともに、1970年代のGibsonが模索していた設計思想や製品哲学を反映したパーツです。
特定のモデルやアーティストの使用例もあり、ヴィンテージ市場では一定の人気があります。
ただし、現行品と比べると互換性や取り付けに注意が必要です。
このように、現行モデルは機能性と汎用性を重視した進化系である一方、GIBSON刻印入りM6は歴史的価値と個性が際立つヴィンテージパーツです。
S©ALETONE.のひとりごと
見た目の印象だけでなく、音のニュアンスにも関わる部分でもあるので、ギターのスタイルや演奏スタイルに合わせて選ぶのがおすすめです。
p.s.それにしても汚いので、いつかオーバーホールした記事を書くかもしれません。